せんばついあひめいもくかようのべん
専伐抜刀名目假用弁

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今回は、「習気」、「三才之矩」、「極意」に続き、「幣帚自臨傅」(正保4年(1647年))巻一の巻末に、
付録として記載のある「専伐抜刀名目假用弁」を取り上げます。

「専伐抜刀名目假用弁」とは難しい表現ですが、「せんばついあひめいもくかようのべん」と読み、
「斬ることを主眼とした居合の名を仮に用いての話」とでもいうような意味で、武士が様々な場面に遭遇した時に、
どのように身を処したらいいかが描かれています。

「往相向太刀(ゆきあひむかふのたち)」
「還抜小手切(かへりぬきこてきり)」
「左連裏勝(ひだりづれうらがち)」
「右連押抜(みぎづれおしぬき)」
「追懸抜磯波(おっかけぬきいそのなみ)」
目録4 
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「専伐抜刀名目假用弁」(せんばついあひめいもくかようのべん)
ここでいう「斬ることを主眼とした居合」の技とは、片山流の「表五箇条」および「裏五箇条」の技を指し、
各10本の技から、夫々一本づつの技名を対にして、5種類の心がまえとしています。



「往相向太刀(ゆきあひむかふのたち)」 
「往相」とは出くわすこと、「向う」とはその方向に進む・近づく、正にそう成ろうとする意味ですから、「往相向太刀」とは、正に敵に出くわしたときに使う太刀で、「事が起こったときには既に用意はできている」という意味になります。
 
常に、事が起ころうとするのを、よく見て、よく知って、準備万端にしておくことが大切で、事が起こってしまうまで放っておくというのは、公禄を頂きながら主君を憚らず、尊敬してくれる下の人々を大事にしない役人が、自分自身が自堕落で油断しているだけでなく、不正行為をもしているようなもので、本人の誤りは大であって、人までも傷つけてしまう行為です。
 
捨てて置けない相手については切ってしまうことにもなりますが、いかに相手が悪い人間とは言え、人を切るという行為は天・人・地の役割を侵す行為です。だから、人を切った後は、自分の腹をも切って、この罪を謝罪すべきであると考えなければいけません。


「還抜小手切(かへりぬきこてきり)」 
「還抜」は元どおりになるよう努力すること、「小手切」とは出鼻をくじくことです。ですから、「還抜小手切」とは、「元のようになるように出鼻をくじく」の意味で、「元の平穏な状態に戻すべく出鼻をくじいて処理する」ということになります。
 
突然の事件に巻き込まれた際、とりもなおさず、出鼻をくじいてその場を処理する事が大事ですが、これは本来自分の役目でもないことですから、処理した後は、その場を去らず自決して、でしゃばった行為をなしたことを謝罪すべきであると考えなければいけません。

「左連裏勝(ひだりづれうらがち)」 
連れとは同行者、右は下位者を指しますので「右連」とは目下の人です。 「押抜」は「押さえて抜く」ことですが、「抜く」には、攻め落とす、やり抜くという意味もあります。ですから、 「右連押抜」とは、「目下の者を押さえ込んで抜く」の意味で、「悪事を働こうとする目下の者を、押さえ込む努力をする」ということになります。
 
目下の者から悪事を頼まれ、禁制の掟を密かに犯そうとするときのことです。 このときは悪事を働かさないようにその者を納得させるべきです。もし相手が納得しないというときは、自分が至らぬために、納得させることができなかったのですから、自分の落度としてその席で腹を切るべきです。もしも、相手がよく納得して止める気になれば、自分もその悪事に荷担するだろうと思われた恥辱を説明して、そう思わせた自分の日頃の行為を謝罪するべきです。

「右連押抜(みぎづれおしぬき)」 
左は上位者を指しますので「左連」とは目上の同行者です。 裏とは秘密、勝つとは相手を破ることですから、「左連裏勝」とは、「目上の者からの内談を打ち破る」との意味で、 「裏から悪事を誘う目上の者を、努力して説得する」ということになります。
 
自分を味方にしようと目上の人から、悪事の内談があるときは、その事が他に漏れないように固く約束を交わし、安心させた後に、その非を諌めて成就させないことです。 その上で、悪事の内談を持ちかけられたということは、自分に不用心なところがあるからで、その罪と目上の人を諌めた両方の罪を深く謝罪して、その場で腹を切るべきであると考えなければいけません。

「追懸抜磯波(おっかけぬきいそのなみ)」 
「追掛」とは先に進んでいるものを後から追う、後からすぐに引き続くということです。 「抜く」には、攻め落とす、やり抜くという意味もあります。ですから、「追掛抜」とは、「すぐに引き続いて抜く」の意味です。 「磯波」は古傅十八刀の中で、名剣として授かったものであり、その意味合いを十分に理解する必要があります。
 
何かが起こったときには、すぐさま対応する努力をする必要があるのです。


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なるほど、

shima8